放射線治療が効きにくくなる要因とは
欧米先進国では、がん患者さんの約半数以上が放射線治療を受けています。日本では放射線治療を受けるがん患者さんは約3割であり、欧米先進国と比べ放射線治療が施行される比率は少ない傾向にあります。
乳がん、肺がん、肝臓がん、大腸がん、前立腺がん等、ほとんどの固形がんでは、がん細胞の急速な増殖やがん局所の不十分な血管形成によって、がん中心部やその周辺部が低酸素状態にあることが知られています。
また、がんの放射線治療ではリニアック (Linear Accelerator、直線状加速器)から照射されるエックス線や電子線(低LET放射線、LET: Linear Energy Transfer)が汎用されていますが、低LET放射線による治療効果とがん組織内の酸素濃度は強く関連することが知られています。すなわち、低酸素状態の部分を多く持つがん組織では放射線治療が効きにくいことが指摘されています。
さらに、低LET放射線治療に抵抗性のがん組織には、ペルオキシダーゼやカタラーゼといった抗酸化酵素の活性が上昇していることが知られています。これら抗酸化酵素は、放射線などによって生じるフリーラジカル(活性酸素種)によるがん細胞内への酸化ストレスからがん細胞を防御しています。すなわち、がん細胞の放射線抵抗性をもたらす原因のひとつであることも明らかになっています。
エックス線や電子線による細胞傷害の作用は、放射線エネルギーが、がん細胞内の生体分子に直接衝突し障害作用を及ぼす「直接作用」ではなく、放射線エネルギーが細胞内の約70%を占める水分子に衝突し、水分子から発生した高反応性の物質(ヒドロキシルラジカルなどのフリーラジカル)が細胞内の生体分子に傷害作用を及ぼす「間接作用」が主な作用であることが知られています。
放射線治療における課題を
克服するメカニズム
KRC-01は全く新しい発想・発見に基づいた放射線増感剤であり、これらの問題点を克服することで、放射線抵抗性の固形がんに対し、その種類や組織型を問わず、エックス線や電子線に対するがん細胞の感受性を高め、優れた放射線治療効果を発揮します。
KRC-01は過酸化水素溶液とヒアルロン酸ナトリウムを混合した注射薬です。過酸化水素(H2O2)はKRC-01の有効成分で、抗酸化酵素を不活化すると同時に酸素を供給することが可能な唯一の物質です。ヒアルロン酸ナトリウムは、H2O2の分解を遅延させ、がん組織における酸素濃度を維持します。
KRC-01が腫瘍内に注射されると、その有効成分である過酸化水素(H2O2)とがん組織に豊富に存在する抗酸化酵素(ペルオキシダーゼやカタラーゼ)が反応し、H2O2は酸素と水に分解され、同時に抗酸化酵素を不活性化します。
その後、放射線治療によるエックス線・電子線によって、がん細胞内の水分子(H2O)は電離され、ヒドロキシルラジカル(•OH)やスーパーオキシドが発生します。このヒドロキシルラジカルやスーパーオキシドは瞬時にH2O2に変換されますが、すでにKRC-01によってペルオキシダーゼやカタラーゼが不活性化された状態では、酸素や水へ分解されずに細胞内に蓄積します。このようにして過剰に産生されたH2O2は、細胞内小器官のひとつであるリソソームに流入し、鉄イオンとの反応(フェントン反応)することによって、再度、ヒドロキシルラジカルが産生されます。そうしてリソソーム膜が不安定化し、リソソーム内のカスパーゼが細胞質に流出し、がん細胞死(アポトーシス)が引き起こされることとなります。
これは、従来から放射線の作用として知られていた「細胞のDNAに対する直接作用・間接作用」とは全く異なる、放射線の「DNAを介さない過酸化水素作用」と言えます。